失われた時を求めて

読書に始まる自伝的ブログ

『劇場』(又吉直樹、2017)

これも何年か前に流行った小説ですが、2022年になって私の目を引くこととなり、読むこととなりました。

純文学なので、文章の美しさを楽しんだり、感じたことのある感情や現象を言葉にするとこうなるよねというのはとても楽しいです。主人公は、自分の中に起こる感情を認識し、一度論理の世界に突き放して整理するものの、やはり感情の奔流に飲まれ、論理に反して望まない・適切でない言葉や行動を選択してしまう。人生の思うままにいかない様を追体験するように感じます。

 

ただストーリーとしては、正直なところ本当に嫌いで、何度も本を置きかけました。というのも私もぷち演劇青年で、似たような思考的な枠組みを持っているし、似たような人をたくさん見てきたからだと思います。

 

自分だけが人生に躓きながら、繊細さによって苦しんでる。そんな他人の様が私は本当に嫌いでした。悲劇とは、悲劇を回避しうるあらゆる手を打って、なお悲劇となってしまうのが美しいのであって、自分から火に飛び込むような真似はみっともないと思っていたのです。しかしあるときに気付いたのは、それは自分の写し鏡で、自分自身の思考的な枠組みだということです。私自身が、自分が一番人生躓いているし、繊細だと思っているから、人にやさしくできないのです。本作の主人公はまさにそのタイプの人間で、イタい自分を直視するようで耐えられない作品でした。

 

人と自分との違いを愛せるようになったら本当の愛だといったことを誰かが言っていましたが、人は自分を愛してくれる人を探し求め、依存して同化し安心したいというのが根本あるのかなと思います。しかしやっぱり人間、自分の足でたった上で支え合わないといけないんだと、いつか気付きます。

 

梅雨が始まる季節、たまには大きな石をひっくり返して、ぐじゅぐじゅに湿りきった暗い世界を覗くのも悪くないものです。今日は過去の後悔と思い出を抱きしめて、ダンゴムシのように丸まって眠ります。