失われた時を求めて

読書に始まる自伝的ブログ

『ドーパミン中毒』(アンナ・レンブケ、2022)

丸善でぶらぶらしているときに『スマホ脳』の横で流行の本として置かれていたのを発見して出会いました。

私は脳の働きとかそういった流れが好きなので、知っている話も多かったですが、知らなかった話なども出てきて楽しく読むことができました。

興味深かったのは、苦痛と快楽の関係と嘘と正直の関係の話でした。

苦痛と快楽の関係は、シーソーのような関係で、苦痛の側に重さをかけると、結果的に恒常性(ホメオスタシス)が作用し、快楽になるという話です。ラグビー部のきつい練習をしていたときのランナーズハイのような感情を連想しましたが、苦痛の後に生じる快楽は、より長く持続する良いものではあるが、”運動依存症”やワーカーホリックには気をつけましょうといった話でした。”運動依存症”の例ではハムスターが出てきましたが、回し車によって”運動依存症”になるケースがあるそうで、そんな話も面白かったです。

運動は細胞には直接的な意味では毒となる。体温を上げ、有毒な酸化体を出し、酸素とグルコースを欠乏させる。しかしそれでも運動が健康を促進し、運動不足は、特に座っているだけで食べ物が出てくる状態──一日中食べ続けている状態──と合わさると、命に関わるということは確かで、これには膨大な証拠がある。

運動は気分をポジティブにする多くの神経伝達物質、すなわちドーパミンセロトニン、ノルエピネフリンエピネフリン、エンドカンナビノイド、内因性のオピオイドペプチド(エンドルフィン)などを増加させる。運動は神経細胞神経細胞を支えるグリア細胞を新生させる。また運動は、薬物を使用し依存する可能性を減らしさえする。

嘘と正直の関係は下記の通りです。人間はそもそも正直に話しことを苦痛と感じる生き物で、嘘をつくようにデザインされているという前段から始まります。その後、正直の効能について二つの観点から議論されます。一つは、自分の行動がはっきり認識できるようになる効能についての議論です。報酬回路の赴くままに依存的に無意識に行っている行動を、皮質領域できちんと認識し、将来の計画を立てたりと工事な作業を持つ領域に持ってくることができます。もう一つは、人間関係を良好にする効能についての議論です。「正直に自分の弱みをさらけ出すことで、相手の不完全さのなかに、人は自分自身の弱さや人間らしさを見る。自分が抱いている疑い、恐怖、弱さが、自分だけのものではないことを知って安心するのだ。」ということです。その親密さがドーパミン源となり、人間同士の紐帯に巻き込まれる中でドラッグなどの高ドーパミン製品への依存も減らせるであろうと推論していました。

正直であることは自覚を促し、満足のいく人間関係を作らせ、確かな自分史を語る責任 を持たせ、報酬を遅らせる能力を高める。私は患者 たちからそのことを 教わった。そしてそれは、依存症を将来発症することを防ぐことさえもできるのかもしれない。

 

私は苦痛を乗り越えることは得意な人間だと思っていて、ずっと自分をガンダムに乗ったようなそんな感覚で2年前くらいまで生きていました。カネコという箱を操縦していく感覚で、得る喜びも苦痛も、ある種外部化することで、表面上耐えていることができたのでした。そんななかで一つ目の苦痛と快楽の関係というのは、経験的に理解したところがありまして、苦痛の中であえて向かう中で快楽が得られ、そうすることでカネコという人間はより”ましな選択”ができるということを考えのベースにおいていました。野村萬斎さんの『狂言サイボーグ』という自伝があるのですが、そんな人間になりたいなと思ったものです。そんな私はワーカーホリックであったし、運動中毒であったし、いまもその熱中で人よりは長い時間戦えるので、そういった表面上の肉体的な強さ・持久力はあるのかなと思います。

しかし保険屋のとき、売れな過ぎて辞めようかなと心折れた時、そんな気配を感じた大先輩が時間をくださって、日曜日の朝7時から支社で話したときに少し変わった気がします。年齢も2周りくらい上ですし、怖い先輩だったので、戦々恐々としていましたが、「お前はどんな人間で、どうしたいかを聴かせてもらって、どうすればいいか一緒に考えよう」という時間でした。このブログで書いているようなことや、上に書いた野村萬斎さんの話のようなことを話していきました。そして結論として自分の中で何が変わったのかというと、そこで自分の本質を恐れずに見るという経験をし、正直の効能といったものを初体験し、それを次第に血肉化していくことになります。過去の話を聴きだすなかで、私の嘘つきというか、ガンダムに乗って自分自身を直視していないこと、それが原因で自分自身が何をしたいかがなく、保険という人の人生を直視する素地ができていないという指導を受けました。親や尊敬する人に正直に自分のことを話して、力を貸してもらいなさいという実践指導も受けました。その後9か月くらい働いて売れこそしませんでしたが、その実践指導の結果、いまの自分があるし、自分の感情を見つめ、正直に生きるといったことができ、満足な人生になっています。

存外に”正直”にというのは難しくて、人間は自分で自分を騙すし、嘘をついて言い訳をすることが得意な生き物です。人の本音を聞き出したいのであれば、スキル的なところもありますが、まずは自分が仮面をはがしてパンツを脱ぐ覚悟をしないといけないなと考えます。そう考えると、営業という仕事は、やっぱりいい仕事だなと思うのです。会社のお金と時間を使って、人と知り合って、そういう関係のなかから何か悩みや不満を聞き出して、それを解決すること自体が商売になり、より多くの人を集めて知り合える、そんな楽しいことはないと思うのです。