劇団ひとりさんの小説。私はお笑いが好きで、劇団ひとりさんは昔からファンで『陰日向に咲く』も小学生のときに読んだ記憶があります。2作目が出てたことは全く知らなかったのですが、太田上田で劇団ひとりさんがゲストに出ている放送回があり、そこで本作の話が上がり、2‐3年前に映画で観たのがはじめの出会いです。曰く「全く売れず、映画もコケた」とのことでしたが、映画も面白く、『陰日向に咲く』『浅草キッド』とともに楽しんで視聴しました。先日、書籍版を始めて手に取り、読み終えた次第です。
本作は『バックトゥザフューチャー』のような話で、売れないマジシャンの主人公が、親父の死に目に会えないなかで思いを馳せていると、雷に打たれ、父の生きた時代に戻ります。そんななかで浅草の劇場に拾われ、マジシャンとして活動するなかで、死ぬ前に聞けなかった親父の想いや、会ったことのない母のことを知るという話です。 とてもダサい主人公で「いつからかな、自分が特別だとおもわなくなったのは」という独白から始まり、売れないマジシャンの嫉妬、意気地のない失恋、そして親と和解できず孝行できずに父との死別、躓きに躓いた人生です。そんななかで過去へのトラベルから、父と向き合っていけるようになります。
私がいつも思うのは、「父や母と上手くいってない人は、仕事も恋愛も、人生上手くいかない」という説です。昔あるバーで、飲みつぶれていた30代後半くらいの女性と話していて、色々失恋した話とか仕事の愚痴とかを聞いておりました。「そうですうよね」「ヒドイですね」みたいに相槌を打ちつつ、彼女が帰ったあとマスターが「父親と上手くいってない女は、男と良い関係が築けないのよ」と言っていたのが、この説との出会いです。確かに考えてみるとそうだなと印象に残っていたのですが、何年か後に生命保険の営業をやっていた際に、この説に確信を覚えることとなりました。企業の経営者や上司の話でも似たようなエピソードを聞くことが多かったです。厳しい父に育てられたり、アル中親父で暴力を受けていた人も、親父の死に直面したり、起業して苦しい時期を経験すると、父について、或いは自分の父に対する向き合い方について、思考を巡らせます。結果、実際に和解したかは別として、心理的に父を受け入れるようになっていくのです。結局「親父も人間だよな」というところと「この人がいなかったらいまの自分ってないよな」という論理的なところから雪解けが始まり、自分が父親あるいは経営者になったり、自分で自分の人生を変えたい・コントロールしたいとなったときに、自分を縛る許せない"父"という幻影と向き合い、自分のルーツを考え、そして心理的に和解していくのです。過去は変えられないが、過去への意味付け変えることができる。
かくいう私も父親と上手くいってなかったというか、あんまり受け入れられてなかったのですが、保険の仕事で父や家族と向き合ったことで、長かった反抗期を終えて、今があると思ってます。父も幼い頃に父親を亡くしていたり、働き盛りで妻を亡くして朝まで働いて食わしてもらってたこと、そして最近母を亡くしたこと。そんなときの感情を聞くと、今までの私の向き合い方って何だったんだろうとまずは論理で氷解していきました。私の祖母にあたる母が亡くなった際、「ひとりになっちゃったな」と呟いた父、月10万円以上保険に付き合ってもらって辞める話をした際「お前が元気ならなんでもいいよ」と言った父。保険屋を辞める際に、やっと感情でも和解したというか許せた気がします。「過去は変えられないが、過去への意味付け変えることができる。」と保険屋時代の先輩から教わりましたが、この経験はまさにその教えを実践したものだと思っております。
高利貸になって"金色夜叉"になろうと思っていた私でしたが、まさに"青天の霹靂"、奇しくも仕事を通して父と相対した記憶が蘇ってきました。今年も母の日に、父が好きそうな食べものを贈ろうと思います。